島民創作ミュージカル「えらぶ百合物語」

 2008年、奄美島唄の永志保さんとのご縁で知名町の夏祭りに出演させていただいたのが、このミュージカルを創作するきっかけとなりました。祭り会場の片隅にある木の下で当時の職員さんが、「町民でオリジナルの舞台を作りたいんです」と熱心に相談して下さったことを、まるで昨日のことのように覚えています。それから島の歴史を調べ始め、これなら演劇作品にできそうだとピンときたのが、百合の花の物語でした。

 島の歴史や文化を描く時に、私は外からの目線が重要だと思っています。黒潮の流れるこの沖永良部島には、海が運んできた幾多の出会いがあります。トゥーループ号の漂着のように、神の悪戯で「たまたま」起きてしまった人々の交流のように。ですが、外からやってきた誰もを虜にしてしまう「何か」が、この島にはあると思っています。もちろん私もその虜となった一人なのですが、外の人たちを魅了する、その「何か」を描きたいと思って書いた脚本が、「えらぶ百合物語」です。

 この話は、イギリス人のプラントハンターであるアイザック・バウンディングと島の人々との交流を描いています。島に咲き誇るテッポウユリに魅了されたアイザックですが、こんな出会いや交流があってもいいかもしれないと創作しました。そこにはアイザックの目線を通した沖永良部島が描かれています。彼を本当に魅了したのは、花だけではなく島の人々であり、その人々が育んだ島の文化であり、哲学なのでしょう。この舞台を制作するにあたり知名町の職員の方々、地域の方々から多大なご支援をいただきました。特に保護者の方々の熱心なサポートには、いつも頭が下がる思いです。

 そして皆さんとの歓談の場で気付いたことがあります。それは、この島の大人たちは常に子どもの話ばかりしているなということです。どこの誰が部活で頑張ったとか、誰にはこんな優しい面があるとか。常に子どもたちを温かい目で見守り、島全体で育てていこうとしている。

 そんな人作りに長けた島だからこそ、アイザックもトゥーループ号の乗組員たちも、そして私自身も、この島を第二の故郷のように思ってしまうのではないでしょうか。人が人を育てる。 地域が人を育む。そんな当たり前であり、最も尊いことを教えてくれる、そんな沖永良部島が私は大好きです。

松永 太郎

(平成30年6月 第4回公演パンフレットより)